2009年5月19日火曜日

経験と思いこみ

フィンランドの教育に関する調査をはじめて五度目の訪問の際、ずっと憧れていたシリヤラインに乗る機会がありました。シリヤラインは一日に一度、ヘルシンキとストックホルムの間を往来する巨大な船です。凍った海をものともせず夕日に消えて行く姿をよくヘルシンキ湾から眺めていました。
まあ、その感想はさておき、シリヤラインが到着するのはストックホルムの港です。そこからバスでストックホルム中央駅まで移動し、地下鉄でホテルに行かねばなりません。同僚と二人の調査旅行だったのですが、中央駅で二人ともさんざん迷いました。中央駅は地上にバスのターミナル、地下一階から三階までに国鉄や地下鉄の駅から入っている巨大な駅です。インフォメーションで地下鉄の場所を訊くのですが、教えてもらった通りに行っても見つからず、大変な苦労をして地下鉄に乗りました。
数日後、今度は中央駅から国鉄でオスロに向かうため、再び地下鉄で中央駅へと向かいます。さんざん苦労したので、数日前に乗った車両と同じところに乗りました。さあ、中央駅に着いて、数日前にそこに辿り着いた時とは逆の道を辿ろうとしたところ、私は国鉄駅の方向を指示していると思われる標識を見つけたのです。スウェーデン語は分かりませんが、”STATION”に似た綴りです。スウェーデン語はドイツ語に近く、ドイツ語は英語と同じゲルマン系の言語だったな、などと考え、同僚にそのことを伝えます。しかし、数日前の苦労が身にしみている同僚は、元来た道を戻ることを、頑として譲りません。私も確たる根拠もありませんので、一応、その標識の方角だけをインプットして、同僚と元来た道を戻る事にしました。
しかし、所詮は迷いながら来た道です。地上に出てみるとまったく見覚えのない風景が眼前にあります。地下を彷徨うよりは地上で、駅の大きな建物を見つけて歩く方が早かろうということで、地上へ出ました。しかし、ストックホルムは高い建物の多い大都会。簡単に駅の建物は見つかりません。私の頭にインプットされたはずの方角を頼りに、何とか港からバスで着いたバスターミナルへと行き着きました。
この出来事から学んだ事は、経験によっても「思いこみ」が生まれるということです。我々の場合、国鉄駅に辿り着くことが目的だったはずですが、いたい経験から、元来た場所に戻ることへと目的がすり替わってしまったのです。経験に頼らず、その時、その場の目的をきちんと意識して、その時、その場にある情報をきちんと読み取ることが失敗を回避するための方法だと悟りました。

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