2009年5月19日火曜日

思いこみとフィンランドの教育

私の定義では「思いこみ」はコミュニケーションの前提になる「仮説」ですので、「思いこみ」なくしてコミュニケーションはあり得ません。したがって、コミュニケーションに失敗しないよう「適切な思いこみ」をもつことが重要です。フィンランドは、子どもたちが「適切な思いこみ」をもてるような教育をしていると、私は考えています。
これまで「思いこみ」による失敗事例で見てきたように、「適切な思いこみ」をもつためには、(1)事実をありのままに認識する、(2)できるだけ多くの可能性を考える、ことが必要です。フィンランドはこの二つのことを教育の根幹にもっていると思います。
まず、(1)事実をありのままに認識する、について私が実際にフィンランドで見聞きしてきたことや、フィンランドからの留学生に聞いたことに基づき説明します。
フィンランドでは特に小学校の低学年において自然体験を重視します。フィンランドは森と湖の国と言われるように、自然が豊かです。そしてフィンランド人は特に森を大事にしています。小学校1年生の「自然」という科目の最初では、「森に行こう」というのがテーマです。子どもたちは森に行っていろいろな形や色の葉っぱや石を広い、それらを分類します。この際、先生は子どもたちが自由に分類するのを妨げないそうです。葉っぱであれば、一応、針葉樹と広葉樹の葉っぱの違いを学ぶことになっているそうですが、そういう分類を先生が押し付けることはしないそうです。そのかわり先生は子どもたちに”Miksi?(なぜ?)”という質問を頻繁に投げかけるのだそうです。このMiksiによって、子どもたちは単なる「思いこみ」ではなく、事実を見据えることを迫られます。
また、フィンランドはOECDのPISAという国際学力調査で世界一を維持していることで有名になりましたが、特に読解力の高さは他国の追随を許しません。日本でも、フィンランドの小学校で実際に使われている国語の教科書を翻訳したものが販売されています。この教科書のいたるところに事実をきちんと認識するための工夫があります。それは、たとえば「夏休みに楽しかったこと」というお題に対して、「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「なぜ」「どのように」といった視点から説明を求めるのです。フィンランドの読解力の高さは読書量の多さにある(OECDの調べでは人口に対する図書館数、年間の国民一人あたりの図書貸し出し数がともに世界一だそうです)と言われますが、単に本をたくさん読むだけではなく、言葉によって「事実」を適切に認識し、かつ伝える訓練を幼いころから積んでいることも大事な要因だと思います。
次に、(2)できるだけ多くの可能性を考える、についてです。フィンランドの教育には、教科や科目を問わず、頻繁に出てくる思考方法があります。フィンランド語では”Ajatus Karta(アヤトゥス・カルタ)”と呼ばれています。日本ではコンセプト・マップ、概念地図法などと呼ばれています。紙の中心に知りたい言葉を書き、そこから関係する言葉をどんどんつなげていくという方法です。この方法は別にフィンランドの発明ではありませんが、フィンランドの教育ではこの方法を積極的に取り入れています。たとえば、先ほどの例で言えば、森で葉っぱを拾って分類した後に、「葉っぱ」という言葉を中心にして、分かったことが知っていることをカルタにまとめていくとか、文章を読んで理解したことをカルタにまとめたり、逆に物語を創作するためにカルタを使ったりと、大活躍の方法なのです。先生はここでもまた子どもたちに”Miksi?”
と詰め寄りますが、一方で、できるだけいろいろな視点から発想を広げるよう指導するそうです。つまり一つの事柄について常に多様な視点から見る姿勢が子どもたちに植え付けられるのです。
以上のことからフィンランドの学校は「失敗する思いこみ」を子どもたちがもたないような教育をしていると私は考えています。

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