2009年7月6日月曜日

本当に大事なもの

あなたの「本当に大事なこと」はなんですか?
転職に悩む大学時代の友人に,トーベ・ヤンソンの「本当に大事なもの以外は無視していい」という言葉を紹介したところ,その友人からこんな質問をされました.その友人は,仕事の内容,給料,働く場所など,どれを一番大事に考えるかで悩んでいるとのこと.私も転職したのですが,まったくの「直感」だったので,改めて自分にとって「本当に大事なもの」は何かを考えてみました.以下はその友人への返信です.

最近思うのですが,「家族」「趣味」「健康」「お金」「仕事」...というように切り離すことはできないように思います.それぞれが結びついて今の私がありますし,今の生活があります.私の場合,クリスマスに家族でコンサートをしたり,週末にバドミントンしたりと,家族と趣味は切り離せません.健康でなければ趣味は成り立ちませんし,お金がなければ趣味も健康も維持できないでしょう.趣味から仕事(研究や授業)のヒントをもらうことも多々あります.

こんなことを言って質問をはぐらかすつもりはなく,「家族」や「仕事」などは,実は「手段」なんじゃないかと思います.何のための手段かというと,自分がこの社会の中で社会的関係を築くための手段です.たとえば「仕事」が大事だという人の場合,仕事によって築かれる社会的関係を重視しているわけです.つまり,組織における立場や会社等の看板を背負った自分が大事なのでしょう.しかしこの場合,退職してしまえば社会的関係はほぼ消滅します.また,「お金」だという人は,お金によって作られる自分と社会との関係,つまりお金ですべて解決できるようなことだけが大事だということでしょう.しかし,お金ではどうにもならないこともたくさんあります.

だからといって仕事やお金を否定するつもりはありません.ただ私の場合,手段によって決まってしまう社会的関係ではなく,求める社会的関係があっての手段という方が,人生を末永く楽しめるように思います.では私の場合それが何かというと,私が「人間」について考え知りえたことに基づく社会的関係です.

大学教員の仕事は大きく教育・研究・組織運営に分けられます.研究という仕事は,私の関心事である「人間とは何か」を探究するための手段ですし,一方の教育は研究によって知りえたことを他者に伝える手段であるとともに,学生たち,あるいは学生と自分との関係を探究する場です.同様に組織運営,つまり会議も人間探究の場です.

趣味も自分と他者を知る場です.人間(の脳)はあるものとあるものを結びつけて一つのまとまりをつくりたがる傾向があります.楽器の演奏はまさに練習によって音符と身体を結びつける作業です.ピアノやコントラバスの練習あるいは合奏をしていると,自分の脳がどのように機能しているのかがよく分かります.

しかし,バドミントンは「脳は結びつけたがる」という理解だけでは試合に勝てないように思います.あるショットを正確に打つということは脳の結びつけたがる性質によって練習すればなんとかなるでしょうが,相手に勝つためには相手がどういこう行動を取るか,すなわちどういう結びつけをしているのかを読み取るとともに,自分の結びつけを裏切ることによって相手の読みを誤らせるということが必要です.このためにはもう少し高度な結びつけが必要なんだろうと思います.

また「脳は結びつけたがる」という視点から人間関係を見てみると,その人が何と何を結びつけたがっているのかが言葉や行動からある程度分かります.家族の間では,こうした個々人の頭の中での結びつきが露骨に出ます.したがって相互の衝突が生じやすい関係にあります.どうすれば互いに幸せな人間関係を築いてけるのかを考える上で家族はとても大切な存在です.

このように考えてくると,私にとってお金や健康は上のような手段,つまり家庭や仕事や趣味などを行うためのさらなる手段です.そういう意味ではお金や健康はとても大事なのもです.しかし私にとって「本当に」大事なものではありません.同様に住む場所も重要ですが,「本当に」重要なものではありません.

ついつい長々と書いてしまいましたが,おそらくトーベ・ヤンソンにとっての大事なものは,人間という小さな生き物だったのだろうと思います.その小さな生き物を守るために画家の道を選び,ムーミン物語を書いたのだと私は思います.本当に大事なものは眼には見えない,と星の王子様は言っていますが,本当に大事なものは,仕事やお金などのように簡単に分けられるものではないと思います.それを言葉にするのは難しいですが.

0 件のコメント: